おじさんは、この悲しい気持ち、辛い気持ち、大事にするよ。

今朝、君が眠ってる場所にカリカリと水を置いて出かけたの、わかったかな?
授乳中の猫には栄養価の高いフードを与えるべきって聞いたから、数日前から君のお母さんには子猫用のカリカリを食べてもらってたんだ。買ったばかりだったんだよ。
でも君のお母さんはホントは歳だから、夕べからシニア用のカリカリに戻ってもらったんだ。子猫用はカロリーありすぎだしね。だから、もう誰も食べない子猫用のカリカリ、全部君のものだからね。一杯あるけど、無理して全部食べなくていいからね。近所を通りかかった誰かにやっちゃってもいいんだよ。君のお母さんしかなついてくれなかったけど、この辺には猫が結構いるから。


あれからまだまだ君の事、思い出すよ。
とてもとても辛いんだけど、でもこの気持ちは時間が経つと忘れちゃうから、でも忘れたくないから、辛いままできるだけ書き留めておこうと思うんだ。おじさんの独り言だから、君は気にしなくてもいいからね。



君は尻尾がなかったね。
生まれたてはみんなそうなのかな?お尻にちょっとだけ尻尾みたいな出っ張りがあったけど、あれが伸びて尻尾になったのかな?可愛い出っ張りだった。ちょっと触ってみたかったな。


おじさんはね、君と一緒にゴロゴロしたかったんだ。
君のお母さんはね、おじさんが寝転がるとすぐにお腹に乗ってきて、グーグーいびきをかいて寝るんだよ。本を読むつもりで寝転がったおじさんも、ついつい釣られて寝ちゃうんだ。
君にも乗ってほしかったな。
大丈夫。おじさんのお腹は大きいから、君とお母さんの2匹くらい十分乗れるさ。君のお母さんなんて、おじさんのお腹の上で寝返りまでうつんだから。
おじさんのお腹、きっと君も気に入ってくれたと思うんだ。


おじさんはね、君と一緒に日なたぼっこしたかったんだ。
ほら、君のお母さんはうちの縁側が好きじゃない?君がお腹にいるってわかる前は、よくおじさんが縁側に座って、そのおじさんの膝にお母さんが座って、二人で日向ぼっこしてたんだよ。君のお母さんはとても器用でね、おじさんが膝を広げて座ってても、片足の腿にちょこんって座るんだよ。君にもできたかなあ?
君とお母さんと3人で、日向ぼっこしたかったな。


おじさんはね、君の頭の匂いを嗅ぎたかったな。
変だろ?
でもね、おじさんは君のお母さんの頭の匂い、よく嗅いでるんだ。夕べも嗅いじゃった。ちょっとケモノ臭くて、ちょっとお日様の匂い。なんか好きなんだよ。
君の頭は、どんな匂いがしたのかなあ?


おじさんはね、君の眼がちょっと心配だったんだ。
ほら、君のお母さんは眼があまりよくないだろ?目やにがひどくって、いつも涙を流してて。獣医さんに「ウィルス性の感染症だ」って言われたんだ。
もらった目薬はチューブに入ってて、それを眼に塗るんだよ。怖いかな?でも君のお母さんは全然嫌がらないんだよ。うん、嫌じゃない訳ないと思うんだけど、でもじっとおじさんの膝に座って、塗り終わるまで我慢してるんだよ。
感染症ってことは、じきに君にも移っちゃうな、と思ってたんだ。仕方ないよね、お母さんの病気だもんね。お母さんも少しずつ良くなってるんだけど、遅かれ早かれ君にも移っちゃったと思うよ。
怖いかな?でも大丈夫だよ。
君のお母さんが我慢できてるんだから、きっと君にも我慢できたさ。


でもね、そんな事ひとつもできなくても良かったんだ。
全然なつかない気難し屋に育ったとしても、
加減を知らない噛み付き屋に育ったとしても。
物心ついたとたんに家出しちゃったとしても、よかったんだ。
生きてなきゃ、ね。


「この子、兄弟いないから喧嘩の仕方とか、学べないね」
「でもおっぱい独り占めしてるから、きっと大きくなるよ」
「トイレはお母さんが教えてくれるかな」
全部叶わなかった。
なにひとつ、かなわなかった。


そうそう、おじさんの奥さんのお母さんがね、君の上にあじさいを植えてくれたの、わかったかな。
おじさんもなにか植えようかな。なにがいいかな?
奥さんと二人で相談するね。
悲しいけど、辛いけど、君の事を話題にする機会はきっとだんだん少なくなっちゃうと思うから、君の名前を相談できなかった分、たくさんたくさん、相談するね。